『覆面ブラザーズの休日 〜悪の組織にも休暇はある〜』第2話 覆面と銭湯とおばあちゃん

大阪・西成のはずれ。

戦いと秘密任務の記憶を一旦しまいこみ、覆面ブラザーズの二人は銭湯へ向かっていた。
 
「兄ちゃんここやで。“なにわの湯 いこいの湯”」
デルタが指さしたのは、少し年季の入った昭和スタイルの町銭湯。
 
「おぉ……このタイル張りの外観、レトロでええなぁ」
シグマは深く頷いた。
 
ただ──彼らの姿は相変わらず、黒いスーツに黒い覆面。
平日の昼間とはいえ、目立たないわけがない。
 
「なあ兄ちゃん。覆面、さすがに浮くで」
 
「ルールは守る。参謀が“覆面は外すな”と言った」
 
「言ったけどぉ」
 
とりあえず受付で「サウナ代込みで」と言うと、番台にいたおばあちゃんがじっと二人を見た。
 
「……あんたら、プロレスラーか何かかいな?」
 
「いえ、企業戦士です」
シグマが即答。
 
「ごっつい企業やな……まあええけど。サウナで倒れんときや」
 
のれんをくぐり、脱衣所に入った二人。
が、ここで問題が発生する。
 
「兄ちゃん、覆面……どうすんねん」
 
「……タオルで巻く」
 
「え、それ忍者スタイルやん!」
 
仕方なくシグマはタオルで顔の下半分を隠し、デルタはゴーグルとタオルで完全防備(?)状態で入浴した。
 
すると──
 
「ちょっとあんたら、風呂でマスクて、どんだけ肌弱いん?」
 
先客のおばあちゃんが、ガン見してきた。
 
「肌……ではなく、素顔を守っているだけです」
シグマの回答は一貫してブレない。
 
「怪しいけど、ええ筋肉してるなぁ。あんたら、昔何してたん?」
 
「少林寺と、柔道と……感情を捨てる訓練」
 
「こわいこわいこわい!」
デルタが慌ててツッコむ。
 
それでもおばあちゃんは笑いながら背中を流してくれた。
 
「まぁようわからんけど、休むときはよう休みや。今の若い子ら、すぐパンクするからなぁ」
 
風呂上がり、二人は瓶のフルーツ牛乳を一気飲みした。
 
「なんか、しみるな」   

「うん…銭湯、ええもんやな」
 
「兄ちゃん、なんか俺ら、普通の人間に戻れてる気がするで」
 
「バカを言うな。俺たちは“覆面ブラザーズ”や」
 
「でもたまにはええやん。こういう休日も」
 
すると、番台のおばあちゃんが手招きしてきた。
 
「にいちゃんら、これ持ってき。スタンプカード。あと2回来たら無料やで」
 
「マジでぇ!? また来よぅや!」
 
「いや俺たち……来週にはミッション復帰や」
 
「ほな今日もう一回入ろ」
 
「それはアリやな」
 
のれんの向こう、ゆるい午後の日差しに、ちょっとだけおっさんの平和があった。
(続く)

 

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【公演まであと1週間】
稽古最終局面へ突入!
今回の『ミッション:おっさんポッシブル 〜VS覆面ブラザーズ〜』はただのコメディじゃ終わらない。
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