大阪・西成のはずれ。
戦いと秘密任務の記憶を一旦しまいこみ、覆面ブラザーズの二人は銭湯へ向かっていた。
「兄ちゃんここやで。“なにわの湯 いこいの湯”」
デルタが指さしたのは、少し年季の入った昭和スタイルの町銭湯。
「おぉ……このタイル張りの外観、レトロでええなぁ」
シグマは深く頷いた。
ただ──彼らの姿は相変わらず、黒いスーツに黒い覆面。
平日の昼間とはいえ、目立たないわけがない。
「なあ兄ちゃん。覆面、さすがに浮くで」
「ルールは守る。参謀が“覆面は外すな”と言った」
「言ったけどぉ」
とりあえず受付で「サウナ代込みで」と言うと、番台にいたおばあちゃんがじっと二人を見た。
「……あんたら、プロレスラーか何かかいな?」
「いえ、企業戦士です」
シグマが即答。
「ごっつい企業やな……まあええけど。サウナで倒れんときや」
のれんをくぐり、脱衣所に入った二人。
が、ここで問題が発生する。
「兄ちゃん、覆面……どうすんねん」
「……タオルで巻く」
「え、それ忍者スタイルやん!」
仕方なくシグマはタオルで顔の下半分を隠し、デルタはゴーグルとタオルで完全防備(?)状態で入浴した。
すると──
「ちょっとあんたら、風呂でマスクて、どんだけ肌弱いん?」
先客のおばあちゃんが、ガン見してきた。
「肌……ではなく、素顔を守っているだけです」
シグマの回答は一貫してブレない。
「怪しいけど、ええ筋肉してるなぁ。あんたら、昔何してたん?」
「少林寺と、柔道と……感情を捨てる訓練」
「こわいこわいこわい!」
デルタが慌ててツッコむ。
それでもおばあちゃんは笑いながら背中を流してくれた。
「まぁようわからんけど、休むときはよう休みや。今の若い子ら、すぐパンクするからなぁ」
風呂上がり、二人は瓶のフルーツ牛乳を一気飲みした。
「なんか、しみるな」
「うん…銭湯、ええもんやな」
「兄ちゃん、なんか俺ら、普通の人間に戻れてる気がするで」
「バカを言うな。俺たちは“覆面ブラザーズ”や」
「でもたまにはええやん。こういう休日も」
すると、番台のおばあちゃんが手招きしてきた。
「にいちゃんら、これ持ってき。スタンプカード。あと2回来たら無料やで」
「マジでぇ!? また来よぅや!」
「いや俺たち……来週にはミッション復帰や」
「ほな今日もう一回入ろ」
「それはアリやな」
のれんの向こう、ゆるい午後の日差しに、ちょっとだけおっさんの平和があった。
(続く)
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【公演まであと1週間】
稽古最終局面へ突入!
今回の『ミッション:おっさんポッシブル 〜VS覆面ブラザーズ〜』はただのコメディじゃ終わらない。
中年たちの“ガチの遊び”、目撃してくれ!
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