金庫室の中、静まり返る空気の中で、全員がひとつのUSBメモリを見つめていた。
「……なあ大竹。このメモリ……“陽子伝説”って書いてるけど、まさか」
「まさかって何や……“まさか”がありすぎて、どれか分からん」
覆面ブラザーズの赤の方――本名・田中ユウスケが一歩前に出る。
「開けてくれ……俺たちにも、その中身を見せてくれ」
「陽子さんの過去、もし何かあるなら……オレら、受け止める覚悟できてるから…」
その言葉に、片山は深く頷いた。
「よし…しゃあない、開けよか。でもな、もし中身がアレやったら…笑って済ませよな」
「笑って、済ませられるかは分からんけどな」
大竹がノートPCを取り出し、USBを差し込む。
画面に、フォルダが一つだけ表示される。
[YOKO_DENSETU.mov]
「……動画、一本だけやな」
緊張に包まれた空間の中、再生ボタンがクリックされた。
* * *
《映像は古いスナックの内部。カウンターの奥には、若き日の陽子がいる。ホステスたちを従えて、演説をしていた》
「いい? スナックというのはね、酒を出す場所じゃないの。夢を出す場所なの」
《拍手と歓声。なぜかスモークマシン》
「私の名は“陽子・シャルル・ダ・ナニワ”! 心の貴族として、この地に愛をもたらすのよ」
《彼女が語るたび、ホステスたちは「はい! 陽子姐さん!」と叫ぶ。どう見ても一種のカルトだ》
「……なんやこれ」
「完全に教祖やんけ」
だが、動画はそこでは終わらなかった。
映像が切り替わり、ある男の顔が映る。サングラス、白スーツ――
「これ、親父や……!」
ユウスケが震える声でつぶやいた。
「ウチらの父さん……俺らが幼いころに姿を消した…」
動画の中の男は、陽子の肩を抱きながら笑っていた。
《この女、オレのもんや! 陽子王国建国や!》
「いやいやいやいや」
片山が叫ぶ。
「えっ、どういうこと? 陽子、王国? おっさん、国作る気やったん?」
だがその瞬間、動画は不自然にブツッと切れた。
そして、画面には新たなメッセージが。
『探偵諸君へ。次のミッションへ進みたまえ』
『ファイルの残りは、次の目的地:通天閣の地下にある』
「……誰かに見られてる?」
「いや、これは…陽子姐さんが最初から仕掛けてた謎やろ」
「まさか、全部仕組まれてたんか。この事件も。覆面ブラザーズとの遭遇も」
その時、部屋の天井に設置された古いスピーカーから声が響いた。
「あんたら、まだまだやね。うちの“陽子伝説”、なめたらあかんよ」
「陽子姐さん!?」
「ほな、次は通天閣の地下で待ってるさかい、気合入れてきいや」
通信は切れた。
一同、しばし沈黙。
「……おい、片山」
「なんや、大竹」
「おれ、ちょっと陽子さんに惚れそうやねんけど……病気やと思う?」
「うん、それ病気やな。間違いなく」
(続く)
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喜劇団R・プロジェクト6月公演
『ミッション:おっさんポッシブル 〜VS覆面ブラザーズ〜』
公演ではこの物語がどう展開するのか!?
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