『ミッション:おっさんポッシブル』第1話

探偵事務所というものは、もう少しスタイリッシュなものだと片山弘樹は思っていた。暗がりに潜む影、鋭い眼光、謎めいた依頼人。そして、煙草の煙が立ち込める事務所のデスクには、いつでも危険な情報が転がり込む……。  
 

だが現実はどうだ。  
 

「ツケ溜め込み探偵の片山さん」  
 

電話越しに聞こえたスナックのママの声は、全く色気がない。  
 

「言い方悪いわぁ。まあ確かに、ツケ溜まってるのは事実やねんけど」  
 

片山は苦笑しながら、デスクに肘をつく。右手には手入れ中のピストル。左手にはスマートフォン。探偵の道具として、これ以上の取り合わせはないはずだが、話の内容が台無しにしている。  
 

「今日はツケ払いに来てくれるんかなぁ? 何ヶ月分かなぁ?」  
 

「いや、それを相談したいんやけど……」    

 

「あぁん?」  
 

「『あぁん?』って、ママ。ガラ悪いわ」   

 

ママの口調はさらに冷たくなる。「うちは慈善事業ちゃうねん」  
 

片山は内心で舌打ちしつつ、適当に誤魔化す手を考えた。こういうときは、多少のハッタリが効くものである。  
 

「実はな、でっかいミッションが入る予定でな。それを解決したら、俺の名が世間に轟いて、ママのお店も有名になる」  
 

「ふーん……それで?」  
 

「お客さん増えて、売上も上がって、つまり俺のツケは先行投資や」  
 

「じゃあその先行投資を回収するために今すぐ払って」  
 

「話の流れおかしくない?」   
 

「おかしくない」  
 

「今回だけ!ほんま今回だけ!」  
 

ママはため息をつき、「しゃーないなあ。ほな、今日んとこは特別に待ったげる」と言ったが、最後に冷たく釘を刺した。  
 

「来月払わんかったらスナック出禁ね」    
 

スナック出禁だけは勘弁してほしい。片山の密かなオアシスが、完全に消え去ることになる。  
 

ちょうどその時、事務所のドアが開いた。  
 

「おはよっす」  
 

姿を見せたのは相棒の大竹浩司だった。元刑事の大竹は、片山とは対照的に真面目で実直な男……のはずだったが、今日の様子は少し違った。  
 

片山はじっと彼を見つめ、ふと眉をひそめた。  
 

「……お前、昨日よりワンサイズおっきなってない?」  
 

大竹は怪訝な顔をする。「なってへんよ」  
 

「いや、なってるって」  
 

「なってへんて」  
 

「お前、昨日までミドル級やったやん。今もうヘビー級やん」  
 

「そんなでかないわ!」  
 

「ほな、チョコザップ行った?」  
 

「行ってへんし。行ったところで一日で変わるかあ」  
 

「ほなどうしたんや?」  
 

大竹は腕を組み、少し考えてから、ぽつりと言った。  
 

「……梅雨太りちゃうかあ」  
 

「ふわあ、ボケよったあ」  
 

「頑張ったんちゃう?」  
 

「しかも分かりづらいボケ!」  
 

そんな他愛のないやりとりが、今日も事務所に響き渡る。  
 

だがこの時、二人はまだ知らなかった。この日、彼らにとんでもない「ミッション」が舞い込むことをーー。

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喜劇団R・プロジェクト6月公演
『ミッション:おっさんポッシブル 〜VS覆面ブラザーズ〜』
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