探偵事務所というものは、もう少しスタイリッシュなものだと片山弘樹は思っていた。暗がりに潜む影、鋭い眼光、謎めいた依頼人。そして、煙草の煙が立ち込める事務所のデスクには、いつでも危険な情報が転がり込む……。
だが現実はどうだ。
「ツケ溜め込み探偵の片山さん」
電話越しに聞こえたスナックのママの声は、全く色気がない。
「言い方悪いわぁ。まあ確かに、ツケ溜まってるのは事実やねんけど」
片山は苦笑しながら、デスクに肘をつく。右手には手入れ中のピストル。左手にはスマートフォン。探偵の道具として、これ以上の取り合わせはないはずだが、話の内容が台無しにしている。
「今日はツケ払いに来てくれるんかなぁ? 何ヶ月分かなぁ?」
「いや、それを相談したいんやけど……」
「あぁん?」
「『あぁん?』って、ママ。ガラ悪いわ」
ママの口調はさらに冷たくなる。「うちは慈善事業ちゃうねん」
片山は内心で舌打ちしつつ、適当に誤魔化す手を考えた。こういうときは、多少のハッタリが効くものである。
「実はな、でっかいミッションが入る予定でな。それを解決したら、俺の名が世間に轟いて、ママのお店も有名になる」
「ふーん……それで?」
「お客さん増えて、売上も上がって、つまり俺のツケは先行投資や」
「じゃあその先行投資を回収するために今すぐ払って」
「話の流れおかしくない?」
「おかしくない」
「今回だけ!ほんま今回だけ!」
ママはため息をつき、「しゃーないなあ。ほな、今日んとこは特別に待ったげる」と言ったが、最後に冷たく釘を刺した。
「来月払わんかったらスナック出禁ね」
スナック出禁だけは勘弁してほしい。片山の密かなオアシスが、完全に消え去ることになる。
ちょうどその時、事務所のドアが開いた。
「おはよっす」
姿を見せたのは相棒の大竹浩司だった。元刑事の大竹は、片山とは対照的に真面目で実直な男……のはずだったが、今日の様子は少し違った。
片山はじっと彼を見つめ、ふと眉をひそめた。
「……お前、昨日よりワンサイズおっきなってない?」
大竹は怪訝な顔をする。「なってへんよ」
「いや、なってるって」
「なってへんて」
「お前、昨日までミドル級やったやん。今もうヘビー級やん」
「そんなでかないわ!」
「ほな、チョコザップ行った?」
「行ってへんし。行ったところで一日で変わるかあ」
「ほなどうしたんや?」
大竹は腕を組み、少し考えてから、ぽつりと言った。
「……梅雨太りちゃうかあ」
「ふわあ、ボケよったあ」
「頑張ったんちゃう?」
「しかも分かりづらいボケ!」
そんな他愛のないやりとりが、今日も事務所に響き渡る。
だがこの時、二人はまだ知らなかった。この日、彼らにとんでもない「ミッション」が舞い込むことをーー。
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喜劇団R・プロジェクト6月公演
『ミッション:おっさんポッシブル 〜VS覆面ブラザーズ〜』
公演ではこの物語がどう展開するのか!?
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